おすすめ度:★★★★★
本書は東京都青梅市に在住で電気機器メーカーに勤務する技術士(電気・電子)でサラリーマンの戸澤 洋二(とざわ ようじ)氏が7年間悩まされた腰痛と坐骨神経痛に関する個人の闘病記です。
戸澤洋二氏が7年間にわたる治療期間にドクターショッピングや代替治療院めぐりをした顛末も書かれており、病院や代替治療院の個人治療体験記にもなっています。
その中には、私もお名前や存在だけは存じ上げている治療院や先生もいらっしゃったので、ここにも行かれたのかとちょっした驚きもありました。
戸澤洋二氏はあちこち(あちらこちら)の病院や代替治療でいろいろな治療を受けておられ、腰痛と坐骨神経痛の闘病記や治療体験記の読み物としてもとても面白い内容が書かれてあります。
本書の中で特に印象的だったのは、代替治療院の先生たちが戸澤洋二さんの腰痛と坐骨神経痛は治ると簡単に言い切っている点でした。
戸澤洋二氏は患者として代替治療院の先生たちの言葉の保証を信じるわけですが、戸澤洋二氏の腰痛と坐骨神経痛がなかなか良くならないと先生たちは手のひらを返したような態度と言葉になっていきます。
私はこの整体の仕事に従事するようになってから患者さんに治ると言ってあげたことがないので、同業者として代替治療院の先生たちが自信たっぷりにいともたやすく治ると断言しているのには驚きました。
さて、私が本書の中で最も興味を持ったのは、戸澤洋二氏の腰痛と坐骨神経痛に関する仮説です。
戸澤洋二氏の仮説の中心となっているのはニューヨーク大学医学部教授のジョン・E. サーノ博士の「TMS(緊張性筋炎症候群)理論」の心身症治療プログラムです。
そして、戸澤洋二氏が最後に受けた治療法の中心は加茂整形外科医院の院長で整形外科専門医でリウマチ専門医、心療内科登録医の加茂淳医師が考案された「筋・筋膜性疼痛症候群」に対するトリガーポイントブロック注射、抗鬱剤(坑うつ剤)や坑不安剤の服用、認知行動療法(イメージトレーニングや楽しいことを考え実行すること)を組み合わせた3本立ての治療法です。
戸澤洋二氏は加茂淳医師の加茂整形外科医院で治療を受けたのではなく、実際の治療を受けたのはNTT東日本関東病院(旧関東逓信病院)のペインクリニックで、担当は宝亀彩子医師です。
戸澤洋二氏はトリガーポイントブロック注射だけでなく腰部硬膜外ブロック注射も同時に受けています。
この治療プログラムを受けることで戸澤洋二氏は7年間に及ぶ腰痛と坐骨神経痛が3カ月でほとんど完治したということです。
初版から2年後に出た改訂版では、その後の経過ということで、戸澤洋二氏は時折以前と同様の場所に痛みが出ることを告白されています。
しかし、その痛みは認知行動療法だけで短期間のうちに消えているようです。
戸澤洋二氏はサーノ博士のTMS理論をもとに「I形の痛みの回路」「J形の痛みの回路」「U形の痛みの回路」「痛みのループ(環)」という4種類の痛みの回路の理論を仮説として提起しています。
また、戸澤洋二氏は過去の痛みの記憶がある条件下で発生する「条件反射痛」という後遺症ともいえる症状も仮説の概念として提起しています。
戸澤洋二氏は自らの治療体験から、慢性疼痛の場合は「痛みのループ」に陥っているのであり、この状態から復帰するには脳をリセットし「痛みのループ」から脱出する治療法を選択することが重要であり、それこそが治癒への鍵であると自説を主張しています。
個人の一患者である戸澤洋二氏が提起している仮説は理論として十分納得できるものであり、腰痛や坐骨神経痛などの慢性疼痛のかなりの部分を説明できるものと思われます。
力学整体でも戸澤洋二氏が提起している「痛みのループ」と「脳のリセット」という2つの理論は重要な示唆を与えてくれるものであり、その仮説は支持できるものと考えています。
力学整体では、慢性疼痛の場合は、股関節部の中心として骨格系と筋肉系に働きかけることで脳神経系のネットワークを通じて全身の体縮と体癖を解消する結果、痛みの発生部である部位の筋肉の収縮状態も解除することによって「脳がリセット」され「痛みのループ」から脱出しているものと考えられるからです。
そういう意味からいえば、力学整体は医学とは異なる方法で「痛みのループ」にアプローチできるているものと考えています。
過去の症例では、戸澤洋二氏と同様の症状で改善した方がいらっしゃることから、戸澤洋二氏には力学整体も有効だったのではないかと考えられます。
戸澤 洋二 (著) 『腰痛は脳の勘違いだった―痛みのループからの脱出』(風雲舎)の詳細へ