脊柱管狭窄症の老人(高齢者)
腰部脊柱管狭窄症の老人(高齢者)Sさんが治療で一番大事なことを語った整体師の思い出を紹介しているページです。
脊柱管狭窄症の老人(高齢者)
脊柱管狭窄症の患者さん
私が礒谷療法所(礒谷式力学療法総本部)で礒谷療法師として数年の経験を経た頃に、静岡県からSさんご夫婦が来院されました。
これを書いている現在(2017年現時点)から約25年くらい前の出来事です。
当時、Sさんは70歳代から80歳代くらいの高齢者だったと思うのですが(私の記憶ではおそらく80代の高齢者だったのはないかという印象として残っています)、脊柱管狭窄症の症状がひどく歩くのもままならないような状態でした。
そのため、Sさんはお一人で来院することが難しく奥さんが付き添いで一緒に礒谷療法所(礒谷式力学療法総本部)へ来院されていました。
Sさんは脊柱管狭窄症の症状がかなり重症ということもあって、私も何度か矯正治療を行ったことはあるものの、菊池秀男先生が主にSさんの矯正治療を担当されていました。
Sさんはご夫婦で泊まり込みで治療に専念されていました。
Sさんは毎日来院されて、しかも1日に午前と午後の2回の矯正治療を受けておられました。
珍しかった脊柱管狭窄症という病気
実は、今でこそ(腰部)脊柱管狭窄症という病名(診断名)をつけられた患者さん(特に中年期・老年期)の数はかなり増えて、現在ではありふれた病名(診断名)になっていますが、当時は足腰の痛みやしびれ(痺れ・シビレ)といえば腰痛や椎間板ヘルニア、坐骨神経痛、脊椎分離症、脊椎すべり症という病名(診断名)の患者さんがほとんどでした。
昔は腰痛本や腰痛関連の一般的な書籍でも(腰部)脊柱管狭窄症という病気は掲載されていませんでした。
ところが、最近になって(腰部)脊柱管狭窄症という病気は、(腰部)脊柱管狭窄症専門書籍の出版はもとより、一般の腰痛本や腰痛関連の書籍だけでなく、一般の健康雑誌などでも特集が組まれて掲載されるようになっています。
最近の治療院の傾向でも、腰痛で来院される患者さんのうち病院で脊柱管狭窄症という病名(診断名)をつけられている患者さん(特にシニア・シニア世代・中年・中年者・中高年者・シルバー・シルバー世代・高齢者・老齢者・老人)の数はかなりの割合を占めるようになっています。
私が治療家として脊柱管狭窄症の患者さんに出会ったのはこのSさんが最初であった。
それまで聞いたことがない病名(診断名)だったのでそんな病気もあるのだと思ったものです。
Sさんには脊柱管狭窄症の症状として特徴的な間欠性跛行(かんけつせいはこう)が見受けられました。
間欠性跛行とは歩行しているとだんだん脚がしびれたり、痛くなったり、こわばったりして歩行が困難になってくる症状で、その場でしゃがんだりして腰の前屈姿勢を取りながら休息することで症状が改善するというものです。
ところが、Sさんの場合は、歩行しているうちに間欠性跛行になってくるというものではなく、歩行する前からそのような症状があってかなりの重症でした。
脊柱管狭窄症には背中や腰を反らせる姿勢をとると症状が強くなるという特徴もあります。
礒谷療法(礒谷式力学療法)と脊柱管狭窄症
ところが、力学整体の施術や礒谷療法(礒谷式力学療法)による矯正治療には、座蒲団による矯正法や腰枕による矯正法、椅子による矯正法など腰や背中を反らせる姿勢をとるものが多いのです。
また、力学整体の体癖修正法運動や礒谷療法(礒谷式力学療法)の屈伸運動による矯正法は、歩行による間欠性跛行と同様に症状を強くする可能性のある運動療法です。
一見すると、力学整体の施術や礒谷療法(礒谷式力学療法)の矯正治療は脊柱管狭窄症の症状を強くしてしまうことになると誤解されかねません。
もっとも、逆から考えれば、力学整体の施術や礒谷療法(礒谷式力学療法)のような矯正治療が普通の人のように通常通りに行えるようになれなければ、脊柱管狭窄症が治ったとか、良くなったとは到底言えないことになるわけです。
そういう意味で言えば、力学整体の施術や礒谷療法(礒谷式力学療法)の矯正治療がどの程度の段階まで行えるようになったかで、脊柱管狭窄症が治っている程度とか、良くなっている程度が判るわけで、改善や回復の目安にもなるわけです。
菊池秀男先生はSさんの矯正治療においては、座蒲団による矯正法は後ろの座蒲団にもたれて反る姿勢にならないように正座の姿勢のまま鉛直(水平面に対して垂直)の姿勢を保つよう座蒲団を高く積んだり、腰枕による矯正法は腰をなるべく反らないように陶枕や腰枕ではなくバスタオルを当てたり、屈伸運動による矯正法は膝を曲げる角度を浅く回数も少なくして慎重に実施し指導をされていました。
もっとも、こうした対応策は、別に脊柱管狭窄症に限ったことではなく、腰痛や椎間板ヘルニア、坐骨神経痛、脊椎分離症、脊椎すべり症など腰痛や神経痛などの痛みやしびれ(痺れ・シビレ)がひどい人や激しい人には同様になされるものではあります。
Sさんの経過は重症であるだけにすぐに治るということはなく、最初の頃はほとんど進歩は見られませんでしたが、日数が経つにつれゆっくりと改善し回復へと向かっているのが分かりました。
脊柱管狭窄症の病態
当時の私には、脊柱管狭窄症についてその病態も初めてで、礒谷療法(礒谷式力学療法)の有効性もよく理解できていないところがありましたが、それでも礒谷療法(礒谷式力学療法)は脊柱管狭窄症にも効果があるのだと知ることができたのは私にとって大きな収穫でした。
脊柱管狭窄症とは脊椎内部にある神経の通り道である脊柱管(せきちゅうかん)が狭くなる状態を指しています。
脊柱管狭窄症といっても、脊柱管が狭くなるには原因があるわけで、その原因にはいろいろあって、生まれつき、脊髄変性症、脊椎椎間板ヘルニア、変性すべり症、骨粗しょう症や腫瘍などさまざまです。
そう考えると、原因となる病気ほうが真の病名であり、脊柱管狭窄症はその結果を便宜的に表現しているに過ぎないということになります。
力学整体や礒谷療法(礒谷式力学療法)では、椎間板ヘルニアや脊椎分離症、脊椎すべり症などに関してその効果は過去の臨床例から実証されているのですから、それらの病名が脊柱管狭窄症と呼称されるようになったからといって力学整体の施術や礒谷療法(礒谷式力学療法)の矯正治療の結果は変わるものではなく同じということになります。
最近では、脊柱管狭窄症の症状の原因は、脊柱管の狭窄による神経組織の圧迫であるという通説に対して、身体の構造異常による神経組織の圧迫ではなく、筋肉のスパズム(けいれん)であるとする学説も登場してきています。
力学整体でも、力学整体における脊柱管狭窄症の効果を考えると、神経圧迫説よりも筋肉スパズム(けいれん)説のほうが説明のつく部分が多いといえます。
菊池秀男先生がSさんの矯正治療を担当している様子とSさんの経過を観察できたことは、後年、私にとって脊柱管狭窄症の会員さんを担当するのに大いに役立つところがありました。
Sさんの改善と回復には、Sさん自身の黙々と努力する姿にも大いに与る(あずかる)ところがありました。
「治療は焦らないこと」の教え
ある日、私はSさんと偶然受付前の長椅子に二人並んで一緒に座ったことがありました。
その時、Sさんは何を思ったのか、私に病気治療に関するご自身の過去の経験から学んだ教訓を語り出したのです。
Sさんは太平洋戦争へ行ったことがあるらしく、そうした戦地で死んでいく大勢の兵士の仲間の人々も見て来たというのです。
そして、Sさんによれば、戦地で亡くなっていった人というのは、治療(治ること)を急ぎすぎた人たちだったと話したのです。
早く治りたいために、まだ完全に治っていないのに焦って無理に動いたりしてしまって死んでいったというのです。
戦争から帰って来てからも、病院は入院していた時期もあって、これまで身の回りで亡くなった人を見ていると、やはり早く治りたい一心で治療を焦ってしまった人たちが亡くなっているのを大勢見て来たというのです。
Sさんは、
「私は長年生きてきて死んでいった人から治療は焦ったらいけないということを学びました。だから、私は脊柱管狭窄症の治療も絶対に焦らないようにしています。ゆっくり治します。」
と私に話すのです。
その時、なぜSさんがそんな話を私に語ったのかその理由はわかりません。
Sさん自身が過去の経験から患者の心構えや心得として「治療に焦りは禁物」ということを教訓にしているということを単に私に話されただけなのかもしれません。
あるいは、私に治療家として患者さんに接する際の参考にしてもらいたいという意図で教えたかったのかもしれません。
今となっては、Sさんのお考えはわからないままですが、Sさんという人物と「治療に絶対あせりは禁物」という言葉とが結びついて私の記憶に焼き付いて鮮明に残っています。
「治療に絶対あせりは禁物」の教訓
「治療は焦らないこと」いう言葉は、ある意味で、力学整体の施術や指導における一番大事な秘訣であり奥義であると言えるかもしれません。
というのも、早く治りたいと考えている会員(クライエント)さんは、すぐに結果を求めるあまり短期間で治らないとすぐに諦めてしまったり、身体の反応や症状の変化があると悪くなっているのではないかとか良くならないのではないかと気分本位にや感情的に判断(解釈)したりして、とかく力学整体の施術や自己整体を途中で断念したり挫折しやすいからです。
早く治りたいとを焦っている会員(クライエント)さんは、力学整体の施術や自己整体に専念せずに、他の矯正法や治療法、健康法(体操や運動)などいろいろやり始めたりして、結局、力学整体でせっかく回復していたのに元の状態に戻ってしまったり逆に悪化させてしまったりすることがあるからです。
また、早く治りたいとを焦っている会員(クライエント)さんは、早く以前のような健康で元気な頃のような状態に戻って元の職場や家庭に復帰したいという気持ちが強いので、養生が必要なのに仕事や家事、運動、スポーツ、趣味、娯楽などの活動を再開して無理に動いたりして、なかなか良くならないとか悪化させてしまったりすることがあるからです。
あるいは、早く治りたいとを焦っている会員(クライエント)さんは、整体施術や自己整体でちょっと良くなる(軽快する・改善する・回復する)とすぐに通院の回数を減らしたり通院の間隔を空けたりして、元の悪い状態に戻ってしまったりさらに悪化してしまったりすることがあるからです。
厄介なのは、早く治りたいと考えている真面目で真剣な会員(クライエント)さんの中には、力学整体師に指導された通りに施術を受けたり自己整体を実行しないで、こうしたほうがもっと早く良くなるのではないかと自分で勝手に変なことを考えて、自己流で変則的な施術を受けたをしたり自己整体をやり出したりしてしまう人がいます。
そうして、自分で自分の身体をおかしくしてしまう会員(クライエント)さんも実際にいるのです。
矯正や治療の効果を焦ることが、諦めや挫折、悪化などを引き起こし、健康回復から遠ざかってしまう会員(クライエント)さんがいかに多いかを私は長年見て来ました。
矯正や治療の効果を焦ると失敗する原因になることもあるということを会員(クライエント)さんにはぜひ知っておいてほしいと思います。
そして、会員(クライエント)さんには矯正や治療の効果を焦って失敗することのないようにしてほしいです。
長年、整体師として会員(クライエント)さんと接していると、Sさんのようなしっかりとした心構えや心得を持っている方というのは本当に少ないです。
Sさんのお話を紹介したこの一文が、力学整体研究所の会員(クライエント)様の役に立てれば、Sさんにも喜んでいただけるのではないかと思います。