岸田秀関連本
- 岸田 秀 (著) 『ものぐさ精神分析』 (中央公論社、中公文庫)
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おすすめ度:★★★★★
私にとって本書は忘れらない一書です。
20代後半に本書を読んだのですが、今でも私の中に本書の影響は色濃く残っていると思います。
それまでの私は、この世界のどこかに絶対的な真理が存在するのではないかと考えていましたし、何とかしてその真理を探究して突き止めたいと考えてもいました。
それが本書を読むことによって、私が期待していた真理は存在しないし、私たちが作り上げたこの世界が幻想の世界であるかもしれないことを認識できるようになったのです。
著者の岸田秀氏は、人間は進化の過程で本能が壊れてしまったという立場から岸田理論を出発させています。
人間は本能が壊れてしまった動物だから、他の動物のように本能に従って生きることができないというのです。
本能に従って生きることができなくなった人間は、本能の代わりに幻想としての文化を作り出したのだと理論を展開していゆきます。
そして、人間は幻想としての文化の中でしか生きられない存在なのだと主張するのです。
著者の仮説が正しいのかどうかはわからないが、その分析は明晰であり、理論の展開には圧倒されるものがありました。
著者の理論は非常に興味深いものがありますが、私にとって重要だったのは著者の「性的唯幻論」ではなく、理論の帰結である幻想論とそれを導き出す過程でした。
そこには、自分が立っている大地が崩れるような驚きがありました。
岸田氏の「唯幻論」を知ることで、私がこれまで価値あるものとして来たものがすべて作り物だったのだと認めざるを得なくなったのです。
岸田理論は、岸田理論自体が幻想ではないかという批判に答えて自らの正当性を根拠づけることができないという根本的な弱点をもってはいるものの、その他の理論は鮮やかでさえあります。
岸田理論を知ることで、自分の信じるものを失うという面があるものの、自分の考えを絶対化するという危険を免れ、自分の考えに謙虚になれるという効用があります。
まだ、本書を読んだことのない人には、ぜひ読んでいただいたい一書です。
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